この記事でいうAI実行基盤は、AIが業務データを参照し、処理を実行し、その動きを管理するための環境と運用の組み合わせです。特定の製品や、大規模な新規システムだけを指す言葉ではありません。

部署ごとのAI利用をまとめるときは、製品選定の前に「誰の権限で何を実行し、誰が承認・停止・復旧するか」を決めます。その条件を既存環境で満たせるなら、設定の見直しや必要な接続の追加から進められます。

以下の確認項目と表は、導入範囲を決めるための設計提案です。Microsoftの仕様を紹介する段落はCopilot Studio/Power Platformの例として記し、他製品に共通する仕様とは区別します。

最初に、対象業務と既存環境を一枚に整理する

「全社でAIを使う」という目標だけでは、必要な環境を決められません。まず対象業務、利用する部署、入力データ、期待する結果を書き出します。回答を画面に表示するだけなのか、基幹システムの更新まで任せるのかによって、確認する条件が変わります。

次に、利用中のAI製品、クラウド、認証、データ保存先、承認手順、運用窓口を並べます。製品名をそろえることより、既存のルールを使える部分と、新たに決める部分を見つけることが目的です。対象業務の選び方から整理する場合は、AI導入ロードマップも参照してください。

ログインする人と、接続先で処理する権限を確認する

利用者本人の認証と、AIが接続先を読み書きする権限は、別々に確認します。利用者がログインできても、その人に必要な範囲だけのデータが渡るかは、接続方法まで見なければ判断できません。

業務ごとに「利用者」「接続に使うID」「参照できる範囲」「更新できる範囲」を対応させます。担当者の異動・退職、権限変更、接続の失効時に、誰が設定を確認するかも決めておきます。

Copilot Studioの仕様例では、ツールに作成者側の認証と利用者の認証があり、個人やグループごとにアクセスを制限する用途には利用者認証が説明されています。利用できるチャネルにも条件があります。Microsoftのツール認証の説明で、公開先と接続方法を併せて確認します。

Power Platformでは、データポリシーによってコネクタや知識ソース、HTTP接続などを制御できます。ただし、接続先を許可する判断と、個々のデータへのアクセス範囲を決める判断は分けて整理します。Microsoftのデータポリシーの説明を、接続先ごとの権限設定と照合してください。

読み取り・更新・外部送信で、承認の置き方を変える

社内情報を読んで下書きを作る処理と、顧客へ送信したり業務システムを更新したりする処理では、誤りが起きたときの影響が異なります。設計では、操作を「参照」「下書き」「更新」「外部送信」に分け、取り消せるか、誰に影響するかを確認します。

人の承認が必要な処理には、実行する対象と内容を確認できる手順を設けます。ログイン済みであることを、個別の業務判断が承認済みであることとは扱いません。承認者が不在のときや、判断に必要な情報が欠けたときの扱いも決めます。

本番前には、正常に完了するケースだけでなく、権限不足、接続失敗、承認待ち、途中停止を確認します。再実行で同じ更新や送信を重複させない確認も必要です。製品固有の移行条件は、Copilot Studioを本番運用へ進めるための確認事項で整理します。

記録する内容と、停止・復旧する担当を決める

「ログを残す」だけでは、障害時に何を調べられるかが曖昧です。設定変更、実行した処理、結果、エラー、承認記録、会話本文を分け、必要な記録、閲覧できる人、保存期間を決めます。記録に含まれる機密情報の扱いも確認します。

Copilot StudioのPurview監査では、監査イベントと会話本文は別に扱われます。Auditのイベントには会話全文は含まれず、スレッドIDが記録されます。利用するライセンスやチャネルなどの条件も確認します。Microsoftの監査仕様を基に、調査したい事象を実際に追跡できるか確かめます。

次の表は責任分担の雛形です。「情シスが担当」で終えず、判断者と作業担当を記入します。外部支援を使う場合も、業務を止める判断と再開の判断を誰が持つかを合意します。

表は横にスクロールして確認できます。

AI実行基盤の責任分担表
決定事項 判断者の例 設定・作業担当の例 残す記録
AIに任せる範囲と承認 業務責任者 現場・開発担当 対象操作、承認経路、例外対応
データと接続権限 データ所有部門 情シス・接続先管理者 データ一覧、権限、変更履歴
公開と設定変更 運用責任者 開発・運用担当 確認結果、変更内容、戻し方
記録の保存と閲覧 情報管理責任者 運用担当 記録対象、閲覧者、保存期間
停止・復旧と費用超過 業務・予算責任者 運用担当・支援先 連絡先、停止条件、再開条件

復旧は、接続を戻すだけで完了とは限りません。処理済みの範囲を調べ、手作業で引き継いだ業務との重複を確認したうえで再開します。停止中の代替手順と、再開を判断するための確認項目を用意します。

責任分担表をCSVでダウンロードする。判断者・設定担当・記録・停止/再開条件と、未決事項を記入できます。

構築費に加えて、利用量と運用工数を整理する

費用は、初期整備、契約、利用量に応じた消費、社内外の運用工数に分けます。既存契約で利用できる範囲を確認し、追加費用と分けて比較します。見積もりには、次の前提を添えると判断しやすくなります。

表は横にスクロールして確認できます。

AI実行基盤の費用整理表
費用区分 確認する内容 見積もりの前提
初期整備 調査、設定、連携、評価、引き継ぎ 対象業務、接続先、変更範囲
契約・ライセンス 既存契約と追加契約 利用者、管理機能、契約条件
従量利用 AI処理、実行、外部API 頻度、処理量、再試行、テスト利用
データ・記録 保存、検索、ログ、転送 データ量、更新頻度、保存期間
運用・改善 問い合わせ、権限変更、障害対応 社内工数、支援範囲、対応時間

Copilot Studioには消費量の確認や月次上限の管理機能があります。ただし、上限の反映は即時ではなく、呼び出すエージェントフローの容量管理も別です。Microsoftの容量管理の説明を確認し、通知、制限、停止時の代替手順を分けて決めます。

既存設定・機能追加・共通環境の三つを比較する

整理した条件を既存製品で満たせるなら、設定と運用の見直しから進めます。一部の接続や処理だけが不足しているなら、その部分を追加します。同じ接続や制御を複数部署で重複して作っている場合は、維持する担当と効果を確認して共通化を検討します。

相談前に、対象業務、利用中の製品、データ保存先、社内の担当者、未決事項をまとめておくと、追加整備の範囲を判断しやすくなります。AI実行基盤の整備支援ではこの範囲を相談できます。製品を具体化する際はCopilot Studioの導入・活用支援、進め方は支援のアプローチもご確認ください。

既存環境のどこを整えればよいか

対象業務、利用中の製品、データ保存先、関わる担当者を、分かる範囲でお知らせください。

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